星が降る夜には 願いをかけよう
指と指を絡めて、人込みを歩いてゆく。
ふと目を上げると、そこにはアイツの視線とぶつかって、気恥ずかしさばかりがつのる。
ゆっくりとただ街外れの丘へ向かって、ゆっくりと二人で歩いてゆく。
時期に誂えたように降る初雪。
街中に静かに降り積もり、綺羅びやかなイルミネーションの光を幻想的に見せる。
白い息が二つ 空に溶けてくSilent night
確かに聴こえるの 胸の奥で鳴る鐘の音
「寒くないか?」
「……ない」
素っ気無く、そう答えてしまったが、嘘ではなく。
繋いだ指先から温もりが伝わってくるから。
街を抜け、高台にあるアイツのフラットへと向かう。
失うことが怖かった頃は 信じられずに傷つけたけど
抱き締める強さ ずっと同じだった
ごめんね もう迷わない
薄暗くしたままの室内から見える、窓一面に広がる無数の灯が、まるで星のように瞬いている。
「綺麗……」
窓辺に設えてあるソファに腰を下ろし、そう呟いた。
「綺麗だろう?」
コトリ……と、私の前にグラスが置かれた。
「何?」
「クリスマス・カクテル」
「トム&ジェリー?」
「正解」
悪戯っぽく笑って見せる。
まるで、子供のように。
この手間のかかるカクテルをわざわざ作るその気持ちに、胸が熱くなる。
「子供みたいだ」
ミルクを使った、暖かい飲み物。
「これ飲んだら、もう眠らなくちゃ。夜更かしするような悪い子は、プレゼントがもらえないからな」
両手に包み込むようにしてグラスを持ち、笑いながら言ってみる。
「それは困るな」
ふわりと毛布で包み込まれた。
同じ毛布の中、鼓動が伝わるほど近くに、互いの体温を感じる。
「これから、ふたりで夜を楽しもうと思っているのに」
アイツが、笑った。
胸が締め付けられる程、綺麗に。
思わず私は目を閉じてしまう。
近付いてくる、その吐息を感じながら。
星が降る夜には 願いをかけよう
この世で一番 素敵な Merry X'mas for you
ほほえみも 涙も 両手に集めて
あなたと二人で かなえる夢を見よう
遠くの教会で、午前0時を知らせる鐘が鳴る。
弾かれたように、ふたりで窓の外を見る。
「雪、止んでる」
そこには、満天の星空。
「綺麗」
「ああ、綺麗だ……」
お互いに顔を見合わせて笑う。それしか言葉を知らないみたいだ。
両腕が、私の背中にまわされる。
「今夜だけじゃない、これからは、ずっと一緒だ」
口付けながら、アイツは静かに囁いた。
密やかな、願いのように。瞬きはじめた星に誓うように。
街の灯には人の命が、天の輝きには星の命が宿っている。
何千年も前の今日。異国で生まれた神の子を祝う。
この日だけは、どんな魔法も解けることはない気がした。
星が降る夜には 願いをかけよう
この世で一番 素敵な Merry X'mas for you
12時を過ぎても変わらない今夜は
あなたが見つけた ガラスの靴をはいて
――この夜が明けても、傍にいたいという願いが、消えませんように……――
“Wish 〜Merry Xmas for you〜” song by 露崎春女
2003.12.24 up