神様は創りかけて やめてしまった
こんな気持ちわかんない ぜんぜん




 満開の桜の大樹を見上げ、ひらひらと雪のように舞い降りる花弁を、その手に受けようとしていた。
 “好き”という気持ちを初めて知ったのは、いつのコトだったのか。
 誰かを好きになるということは、とても特別なコトで。
 けれども、それは学校の授業では教えてもらえなかった。



かたっぽの靴が コツンってぶつかる距離が好き
ねぇ キスしよっか
春の風うらんだりしない桜が 髪に ほら こぼれた




 あの頃から私は、とても天の邪鬼で。
 ずっと、“好き”だったのに、言葉にも出来なかった。
 悪ふざけばかりしていて。
 授業を抜け出して、行けるうちで一番遠い所まで手を取り合って行ったこともある。



 ――傍にいるだけで通じている心があると、思っていた。



今誰か使ってるの 窓際ならんだ席 こっから見えるかな
「絶交だ」って彫った横に「こんどこそ絶交だ」って彫った
誰も気づかない机の上
あたしたちがそっと息している




 今でも、思い出すだけで胸が締め付けられる、そんな切なさの淡い想いが、ある。
 友達なのに、それだけでは足りないキモチ。
 それは、きっと、アイツに出逢うための序奏。
 桜が咲く度に、思い出す人がいる。



『いい思い出化』できない傷を 信じていたい
真っ白に敷き詰められていく
あたしたち新しくなれるの?




 あの日、髪に舞い降りた桜を、こんなにも愛おしく思ってしまう。
 授業では習わなかったけれど、人を大切に想う気持ちは、あの小さな教室で教えてもらったから。
 真新しい制服に身を包んだ生徒が、慌ただしく校門に駆けこんでゆく。
 あのコも何年かしたら、今の私みたいに、懐かしく思い出すのだろうか。



桜になりたい いっぱい 風の中で いっぱい
ひとりぼっちになる練習してるの
深呼吸の途中 できない できない できない できない
神様は創りかけて やめてしまった
こんな気持ちわかんない ぜんぜん
あたしとあたしの手があなたにふれた時
できない できない できない




 「好き」と言えなかった、あの時の気持ち。
 言えなくても良かったと今は思っている。
 だって、私は出逢ってしまったから。
 言えなかった“好き”は、私の中で育っていって――。
 何よりも強くて大きな“力”になった。
 あなたの手に触れた、その暖かさを、私は忘れない。
 誰よりも愛しい人に、出逢えたから。
 だから今、あなたにもう一度ここで会ったとしても、とびきりの笑顔で迎えられる。



 桜……、桜……。
 その淡い、淡い色は、まるで雪のように世界を染めるけれど。
 私の心をあの時の気持ちに戻してくれる、魔法を持っている。



 ――ひとは、この想いを“初恋”と呼ぶのだから……。



“桜” song by 川本真琴
2001.04.03


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