ＢＥ　ＹＯＵ

　――君がいる世界は、こんなにも綺麗――


　そっと、君の肩を抱き締める。
　夜の底で、互いの鼓動が聞こえる。

　――こんなに切ないのは、何故だろう？

　僕を見上げて、君はふわりと笑いかける。
　その笑顔が愛しくて、恋しくて。
　どうして、こんなに君と一緒にいたいのだろう。
　その優しい体温が、僕の冷たい体を温めてくれるからだろうか。

　――切なさや、淋しさから、一緒にいたい訳ではなくて。

　額に、唇を落とす。
　君はくすぐったそうに、目を閉じる。
　僕はその瞼にもキスをする。そして、頬に、唇に、何度も口付ける。だんだんと、深くなってゆく、接吻。その吐息も、鼓動も、何もかもを奪っていくように。

　――世界でたったひとり、自分だけを見つめて欲しい……。

　それは、「欲」なのだろうか。
　他に何一つ、望まないのだとしても。
　素肌に触れる。
　しっとりと濡れた皮膚が、こんなにももどかしく思えるのは、何故だろう。……いっそのこと、喰い破ってしまおうか。そうすれば、もっと君に近付けるかも知れない。
　でも、そんなことは出来なくて、その肌に朱い所有の証を幾つも刻み付ける。
　
　――ふたりが別の存在であることが、こんなにもやりきれない思いを抱かせるのは、何故だろう……。

　触れる度に上がってゆく君の熱が、僕にも伝わってくる。
　いつまでも冷たい僕の身体と、君の熱を帯びた身体が交ざり合い、溶け合い、一つになってゆく。

　「……雨だ」
　静まり返った室内に、俄に響く雫の音に、君は身体を起こすと、シーツをその素肌にまとい、窓辺にゆっくりと歩み寄った。
　外からの明かりが、ほんのりとその綺麗な横顔を映す。
　「雨は嫌いか？」
　僕は訊いた。
　「いや、嫌いじゃない。ただ――、少し物悲しいだけだ」
　そう言って窓の外を見つめ続けるその姿が、今にも消えてしまいそうで――。
　僕は、思わずその細い身体を抱き締める。

　――冷たい雨に、その心が閉ざされてしまう前に。

　君のいる世界は、こんなにも美しい。
　ただ、君がいるというだけで……。
　けれど、それは言えない。
　「……そんな表情（かお）するなよ――」
　――傍にいるから。
　でも、その言葉も声にならない。
　「馬鹿だな、お前の方が泣きそうな顔しているじゃないか……」
　傍にいて欲しい。
　その言葉が言えたら、どんなにいいだろう。
　君の腕が、僕の背中に回る。
　目を閉じて、君からのキス。

　――今すぐに、世界が闇に閉ざされてしまったとしても、構わない――

　そして、再びふたりは夜の底に沈んだ。
　互いの腕の中に在るものが、ただ一つ確かなものだというように、抱き締めあう。

　――ＢＥ　ＹＯＵ　ＢＡＢＹ　キスしたいのさ今スグ　ＢＥ　ＹＯＵ
　迷わないで　僕にとってのアナタは　たった一つの真実――

　隣で眠る君の、穏やかな寝顔を眺めていた。
　そう、愛（かな）し過ぎる時間は、とても満ち足りた想いを抱いて、静かに流れてゆく……。
　未来など、イラナイ。
　この優しい時間が、このまま、凍り付いてしまえばいい。
　けれど、君が傍らにいるのなら、世界はこんなにも美しい。過去も未来も、何もかもが、こんなにも綺麗。
　君がいるのなら、僕は僕のままでいられるのだろう、きっと……。

“ＢＥ　ＹＯＵ” song by FANATIC◇CRISIS
2000.09.14 up

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