アイツ



 ――君に惹かれていく――


 初めて出逢った時、君の隣にはアイツがいた。
 そして、僕の隣にもあの人がいた。
 けれど、何故か分からなかったけれど、その日から僕は君から目が離せなくなった。
 そう、あの日から――。
 出逢った日から、総てが……、そう、君が総てになってゆく。
 それなのに、君は見つめ続けていた。アイツの影を……。

 こんな想いを抱いているのは、アイツへの裏切りだと分かっている。もちろん、あの人をも裏切っていることも、知っている。
 でも、この想いは止められない。
 アイツの隣でうつむき、その瞳が微かに涙に濡れているのを見た時、僕の中で何かが弾けた。
 どうしてそんなに辛い想いを抱えたままで、アイツの隣にいることを望むのだろう?
 アイツの想いも何もかも、分かっている。
 確かに、ふたりは想い合っていたということも、知っている。
 でも、誤魔化しようのない気持ちが、加速度をつけて君に向かってゆくのを止められない。

 辛い恋をしているのなら、いっそのこと何処か遠くへ攫っていってしまおうか。
 そんなふうに考えてしまうほど、僕は君に壊れている。
 君以外に何もいらない。
 何も見えなくても、いい。
 総てを捨てられる。そう思える。
 それなのに、君を傷つけることだけが怖い。
 僕の隣にいるあの人を切り捨てることは厭わないのに……。

 ――君を愛している――
 
 譬えそれが、親友の恋人だとしても、何を引き替えにしても手にしたいものがある。
 そう、それでもただ、今は、君の心が何処にあるのかが知りたい。
 君の総てを、手にするために。

 ――アイツの影 涙の理由(わけ) すべてを吹き消し奪いたい
 友情と愛情に もがきながら それでも誰にも譲れない
 ただ瞳をそらさずに明日を信じてみる
 引き返せない想いは ENDLESS――

 リスクの高い恋。
 それだけに余計、手に入れたい。
 ただ、君の傍にいる明日を掴みたい。
 それだけを望む僕の未来は、何処に向かっているのだろうか――。

“アイツ” song by 東野純直 2000.10.06 up


戻る